こんにちは!M&A勉強中のコンサルタントのYUTAKAです。PART1・PART2に引き続き、買収対象会社の初期的な財務分析を進めていきたいと思います。
b-2) 資本効率
年度 | N-2期目 | N-1期目 | N期目 |
流動資産 | 1,300,000 | 1,900,000 | 1,800,000 |
流動負債 | 650,000 | 1,350,000 | 1,190,000 |
運転資本 | 650,000 | 550,000 | 610,000 |
その他の資産 | 320,000 | 370,000 | 370,000 |
その他の負債 | 100,000 | 60,000 | 20,000 |
自己資本 | 870,000 | 860,000 | 960,000 |
総負債 | 750,000 | 1,410,000 | 1,210,000 |
総資産 | 1,600,000 | 2,300,000 | 2,200,000 |
現金 | 950,000 | 1,050,000 | 1,200,000 |
売掛金 | 320,000 | 870,000 | 560,000 |
棚卸資産 | 30,000 | 15,000 | 15,000 |
固定資産 | 100,000 | 150,000 | 140,000 |
買掛金 | 230,000 | 630,000 | 450,000 |
年度 | N-2期目 | N-1期目 | N期目 |
売上高経常利益率 | 4.0% | 4.2% | 6.0% |
売上高純利益率 | 3.7% | 3.5% | 4.5% |
流動比率 | 200.0% | 140.7% | 151.3% |
当座比率 | 195.4% | 139.6% | 150.0% |
売上債権回収期間(月) | 2.6 | 8.0 | 6.7 |
在庫回転期間(月) | 0.2 | 0.1 | 0.2 |
自己資本比率 | 54.4% | 37.4% | 43.6% |
負債比率 | 86.2% | 164.0% | 126.0% |
総資産回転率(回) | 0.9 | 0.6 | 0.5 |
N期における総資産回転率(売上高÷総資産)が非常に低く、0.5回となっています。N-2期の0.9回から著しく低下していますが、自己資本、棚卸資産、固定資産などに著しい変化は見られないため、これもまた負債の増加との関連性があると考えられます。上記の負債比率と同様に、さらに過去にさかのぼった財務分析を行うなど、これが一時的なものであるかを見極める必要があるでしょう。このような負債状況や資産効率の悪化が一時的なものでなかったとしても、A社にとっては、これを改善するための戦略を立て買収後の経営効率を向上させることで、将来的な成長につなげるチャンスとなります。
MISA: BS上の資産というのは、期中の会計処理の中ではPLに計上される経費と紙一重の存在にあります。B社は年々、利益減少傾向にある中ですが、直近期のBSの資産上に「本来は費用として計上すべき資産が存在しないか?」という点も着目すべき点です。その点を踏まえてようやく「本来のBSの姿=買収する対象BS」が見えてきます。簿価上の資産よりも、実質の資産は小さくなる傾向があります(もちろん、簿外資産もあり増えることもあり得ますが)。この本来の資産の姿が純資産額に影響してくるため、買収対価にも関わってくるので、資産項目の中身は丁寧に精査していくと良いでしょう。
b-3) キャッシュフロー
キャッシュフローを示す直接的な指標はないものの、特にN-1期とN期において売上債権回収期間(売掛金÷(売上高÷12))が相当に長くなっています。このことから、新規建設案件の実行に当たっては、キャッシュフローが悪化する傾向にある可能性があります。この変化も負債比率の増加と連動していることからも、合理的な推察であると言えるでしょう。なお、N-2期においても売上債権回収期間が短いとは言えない水準ですので、日常的な取引における支払い条件について、確認することが推奨されます。ちなみに、在庫回転期間(棚卸資産÷(売上高÷12))がいずれの期においても非常に短く、また流動比率と当座比率が近しい値を示していることからも、不良在庫のリスクは見られないことがわかります。
MISA: 財務諸表の中で、唯一「嘘をつけない」のがキャッシュフロー計算書です。期末のキャッシュフロー計算書がなくとも、BS・PLから簡易的に作成することは可能です。
B社は直近期ではキャッシュフローは増加しています。ただし、「なぜ増加したのか?」とその経緯を考えることが重要です。今回の情報では、おそらく負債(借入金)の増加が要因なのではないかと考えられます。本来は、営業キャッシュフローでプラスの結果(本事業でキャッシュを稼げている)、投資キャッシュフローではマイナス(何かに積極的に投資している)、そして財務キャッシュフローではマイナス(過去の借入金を返済できている)というのがざっくりと理想のキャッシュフローの姿ですが、おそらくB社は財務キャッシュフローのプラス(借入金の増加)で総合的にキャッシュ増を実現したのではないかと思われます。
また、今回のYUTAKAさんのコメントでは不良在庫リスクは低いとのことでしたが、今回の建設工事やアフターサービスなど、仕入れ商品が発生しないのではれば、そもそも在庫はほとんど存在しないはずです(実際、財務情報を見る限り少ないですね)。ただし、本業種に限らず、どの対象企業であってもまず「在庫が何なのか?」「どのように棚卸資産を計上しているのか?」は確認したほうが良いでしょう。この点は、棚卸資産が売上原価の適切な計算ができているのかということに直結しますので、やはり原価計算が適切かどうか=特に売上計上のタイミングがきちんと期間収益の原則に対応しているかどうかを確認すると良いと思います。
PART4に続きます。