こんにちは!M&A勉強中のコンサルタントのYUTAKAです。PART1・PART2・PART3に引き続き、買収対象会社の初期的な財務分析を進めていきたいと思います。
その他の検討項目
a. 市場でのポジションの評価
B社の市場での立ち位置を理解することは、リスク管理の観点からだけではなく、M&A後の適切な事業戦略を描く上でもとても重要です。今回はB社自身の財務情報に基づいた考察ですが、これをB社の同業他社まで広げることで、業界内におけるB社の強み・弱みを相対的に理解することができると考えられます。さらには、市場調査を行い、B社の主要顧客との関係や顧客満足度を評価することも有益です。
b. シナジー効果の具体的評価
A社とB社の間の潜在的なシナジーを具体的に評価することが必要です。これには、技術的な統合、製品ラインの相互補完性、販売網や供給チェーンの統合などが含まれます。A社の既存ビジネスはB社におけるアフターサービスの業務分野に特化しており、またA社は海外市場にて、B社は日本国内市場にて販売網を築いています。B社にとっては縮小する国内市場のみならず海外市場に打って出る機会を得ることができ、A社にとっては新規建設にかかわる技術的ノウハウを取得することが可能です。より深く検討を行う際には、A社とB社の連合による提案が、海外市場にてどの程度の競争力をもつか、仮に競争力に難がある場合はどのような改善策をとれるのか、また、「海外の新規建設マーケット」という両社が現状持ち合わせていないマーケットに対応するための人的リソースをどのように確保するかなどに着目すると良いでしょう。
MISA: シナジーの考察というのは、M&Aで一番面白いところですね!ただし、その実現(買収後のシナジー発揮)は本当に難しいものだと思って臨んでいただくと良いと思います。もちろん、シナジーを事前に考察することは前提ですが、オーナーや経営者が交代することでの従業員への心理的なインパクトは想像を超えるものがあります。従って、どのようなM&Aであっても、まずは既存従業員のモチベーションを下げることなく、最低限現状維持のまま引き継げるだけでもスゴイことだと思っていただいた方がよいかもしれません。不動産取引と違って、人材がついてくるのがM&A。経営交代の後、働く人と向き合ったうえで、A社とB社がお互いに強みを生かせる戦略をじっくりと模索していくと良いと思います。
特にシナジーを利かせやすい部分として考えられるのは、両社がお互いの顧客を共有できること。例えばA社が自社のサービスをB社の顧客へも提案できるという拡大の仕方です。また、両社がお互いの人材を交流させられること。A社の従業員はB社から学び、B社の従業員へA社から学ぶことができると、お互いに「どちらが親会社でどちらが子会社」という上限の関係ではなく、リスペクトし合える関係を築けるものと考えます。実際に、M&Aによってとあるグループ傘下に入った会社の従業員が、グループ内の他者で教育の機会に恵まれたり、異動したりなどの事例を聞いたことがあります。人材開発もしやすくなる可能性もシナジーの一環として考えられますね。
c. 株主構成
上記以外に、B社の現状の株主構成も検討に値します。事前に調査した情報によると、B社は10%を超える株式を保有する株主がいないということでした。従って、少なくとも10名以上の株主が存在し、株式がかなり分散している状態にあることがわかります。これは、M&Aを実行する上での意思決定だけでなく、M&A実行後の経営決定にも大きな影響が残る懸念があります。まずは、株主構成を詳細に把握し、例えば同族で何%保有しているかなど、意思統一の可能性を探るとともに、仮に過半数や2/3超の株式取得が見込める場合でも、拒否権付株式(黄金株)を保有する少数株主が残らないかどうかなどの検討も必要になります。
MISA:このテーマは、最後に出てきましたが・・・・何よりも一番重要ですね!(笑)株主の分散はM&A実行時にはものすごく話が混乱しやすいため、実行する前に整理しておくべき重大な問題です。譲渡実行の前に株主間で株の売買をして、株主を1本化できれば理想的です。私が手がけた案件でも、第3社承継の前に、既存株主間で話をつけ、少々割高で株式を買い取っておくケースがよくありました。売主側にアドバイザリーがいれば、アドバイザーが支援する範囲に値すると思いますが、買収側と売却側が直接のやりとりする場合には、うまくいくケースといかないケースが考えられると思いますので、事前に作戦を慎重に練っておいた方が良いと思います。
結論
B社の買収は、A社にとって重要な戦略的決定です。買収によって得られる直接的な利益だけでなく、A社の長期的な成長戦略との整合性を考慮に入れる必要があります。従って、財務的なリスクの詳細な評価、市場でのポジションの確認、そしてシナジー効果の検証が重要な検討事項となります。これらの分析を通じて、A社はB社の買収がもたらす機会とリスクを総合的に理解し、適切な戦略的判断を下すことにつながります。同時に、M&A実行の可能性や、それにかかわるコストの検討も、重要な評価項目と言えるでしょう。
MISA: クロスボーダーM&Aの場合は特に、DDを通じて「リスクをゼロにする」ということは不可能であり、「リスクがどれくらいあるのか、可能な限り実態を把握する」というものだと言われます。そのためには、様々な仮説を立てて検証していく必要があります。その先にリスクを上回るリターンが見出すことができれば実行に値するM&Aであると考えられます。時間も労力もかかるのがM&Aですが、勇気をもって挑戦する企業を応援したいと考えています。