こんにちは!M&A勉強中のコンサルタントのYUTAKAです。今回は、案件化に失敗した事例についてお話します。約1年ちょっと前、M&Aとは全く別の、事業開拓のコンサルティング案件で出会ったのが、とある台湾の動物用医薬品会社の社長でした。その時の会話の中で、彼が近い将来会社をたたむ予定であることを聞いていました。そのお話をうかがった際、M&Aの可能性があると感じましたが、忙しさからすぐに行動を起こすことができず、結局タイミングを逃してしまったというのが今回の事例です。

案件概要

この台湾の動物用医薬品会社は、約60年前に創業され、現在は創業者の息子が社長を務めています。長年無借金、黒字経営を続けてきましたが、現社長は高齢ということもあり、かつデベロッパーから土地を買収したいという話を持ち掛けられたことをきっかけに、引退を決意しました。

昨年まではビジネスは通常通り継続されており、デベロッパーとの話もまだ先の話で、特にいつ引退するという明確な予定はないということでしたが、今年に入ってから再度お話をうかがったところ、既に半分引退状態で会社をたたむ準備をしていると言われてしまいました。

なお、会社の主な製品は動物用医薬品やペット用ビタミン、ミルクなどであり、主な市場は台湾国内およびフィリピンです。経営状況も良く、取得の難しいGMP認証工場や台湾の薬品製造許可も持っていたため、魅力的な案件となり得た会社でしたが、今年に入り、以下のような状況と判明しました。

台湾国内市場

現社長は引退準備に入り、国内市場の顧客には他の会社から買うよう伝えてしまっており、既存の顧客基盤が失われている状況でした。しかし、長年取引をしていた代理店は、もし事業が継続されるようであれば、取引を再開したい意向があるようでした。

フィリピン市場

フィリピン市場では、コロナ前には年間2000万台湾ドル(約9000万円)の売上があり、その後売上が減少したものの、市場が回復すると同程度の売上が見込めるとのことでした。また、現社長がフィリピンに養豚場を所有しており、これに対する動物用医薬品の需要も見込まれています。この点は、事業継続した際にもメリットとなると考えられます。

許認可と設備

この会社の工場はGMP認証を取得しており、台湾の薬品製造許可も保有しています。これらの許認可は取得が難しく、高い価値を持っていますが、許認可の期限が迫ってしまっており、M&Aを実行するには非現実的なタイムラインになってしまう状況でした。

許認可は製品ごとに取得されていたので、製品ごとの市場性や、製造設備の競争力などの評価、また認証・認可の譲渡スキームの組み立てが必要でしたが、それらの評価を行うような時間は到底残されていない状況でした。もし昨年すぐにスタートしていたら、これらの課題をクリアできたかもしれません。

M&Aにおけるタイミングの重要性

このケースから学んだことは、M&Aにおけるタイミングの重要性です。特に引退予定でM&Aを視野に入れていない社長が相手の場合は、早めに動くことが極めて重要と学びました。スモールM&Aにおいては、先方が引退予定ということも多いかと思います。今後は、以下のような点に気を付けて、アンテナを張っていきたいと思います。

1. 早期のアプローチ

M&Aの成功には、適切なタイミングでのアプローチが不可欠です。売り手の状況や市場の変化を早期に把握し、迅速に行動することで、チャンスをものにする確率を上げることができるでしょう。

2. 許認可の期限管理

製造許可や認証の期限を見逃さないことも重要です。許認可が切れる前に買収を完了させ、その価値を確保するためには、綿密なスケジュール管理が求められます。

3. 事業継続の準備

売り手が事業を継続する意思があるかどうかを早期に確認し、それに応じた買収計画を立てることが重要です。現社長が引退しても事業がスムーズに継続できる体制を整えることは、買収後のリスクを抑えるためには不可欠なステップです。

MISA:YUTAKAさん、M&A失敗例ということで共有いただきありがとうございます。今回は買手としての行動が遅すぎた、ということでしたが、なかなか買手主導でM&Aの商談を軌道に乗せるのは難しいものですね。本来は、売主の社長本人が「会社を畳む」という選択をする前に、「売却」という選択肢を検討することができれば機会が広がったのではないかと思います。なので、個人的には買手からのアプローチには限界があるように感じてしまいますが、「タイミングが命」という意味では、M&Aはまさに「ご縁」の世界ですので、全く正しいと感じます。

買手が対象会社を狙い撃ちしてM&Aしたい場合には、それなりに時間と忍耐力が必要となることを覚悟して、タッピングする相手のリストアップや、買収条件の優先順位付などを早期に行うと良いと思います。買収先探しを引き受けてくれるM&Aアドバイザー会社がどれだけいるかわかりませんが、そのあたりのリサーチについても支援してくれる業者もいるはずです。本気で狙い撃ちしたい場合はリテーナー報酬を支払ってでも稼働してもらう方が効率的かもしれません。うまく初期的な商談に発展したとしても、YUTAKAさんの指摘の通り、売主の意向を早期に確認したり、ビジネス上必須な許認可関連の情報を精査したり、やることは盛りだくさんです。それらの困難を乗り越えてやっと、「ご縁を繋ぐ」ような結果を導くことができる世界だと思います。ただ、それだけのエネルギーを費やす価値のある”買い物”なのであれば、是非多くの買手企業にはチャレンジしてもらいたいですね!買手のアプローチによって、世の中の事業承継課題を抱える事業者を救うことにもつながるかもしれません。